100年くらい前の本づくり
明治初期、近代化をめざす日本に、海外から新しい知識や技術が大量に流入しました。印刷・製本もそのひとつでした。それまでは瓦版や浮世絵に代表されるように木版が印刷の主流でしたが、活版や銅版、石版といった新しい技術が取り入れられるようになりました。 本の形も、和紙を折って綴じた「和本」から、洋紙を糸でかがり厚く固い表紙でくるんだ「洋装本」へと大きく変化しました。和本に比べて洋装本は一冊に含まれる情報量が多く、この時代の洋装本への移行は必然でした。
しかしながら、当時の日本には西洋式の本をつくることのできる製本職人はわずかで、明治6(1873)年にようやく明治政府のお雇い外国人パターソンによって、製本の本格的な指導が始まりました。明治10(1877)年には、明治期の大ベストセラー『改正西国立志編』が刊行されます。日本初の国産洋装本と言われており、印刷は大日本印刷の前身、秀英舎によるものでした。
本展では『改正西国立志編』など黎明期の洋装本から、製本が機械化する昭和初期までの本を解体し、それぞれの製本方法を調べることで、日本に洋装本が定着していった過程をご紹介します。和本の技術でつくられた「なんちゃって洋装本」や、米国の教科書やパンフレットで使われていた簡易製本による文芸書など、当時の製本職人が自分たちの技術と手に入る材料で試行錯誤した様子がわかる本もあります。印刷・製本技術の進展とともに豊かになっていく装幀の表現力とあわせて、100年くらい前の本づくりの進化に迫ります。
上:『改正西国立志編』、下:『金色夜叉』(撮影:川並京介)
主催:市谷の杜 本と活字館
監修:木戸雄一(大妻女子大学文学部教授)
解体・製本協力:岡本幸治(製本家・書籍修復家/アトリエ・ド・クレ)
繊維分析協力:宍倉佐敏(繊維分析研究者/宍倉ペーパー・ラボ)
古書製本再現:恩田則保(恩田製本所)
展示デザイン:中沢仁美(株式会社シービーケー)
展示グラフィック:荒井胤海
イラストレーション:岡野賢介
撮影:川並京介